
子どもの頃、マジックにはタネがあるなんて思いもよらず、まるで本物の魔法のように信じていました。やがて成長し、仕掛けがあると知っても、なお見破れない不思議な世界。そんな“実像と虚構の境目”をどうしても知りたくて、75歳になってついにマジック教室の門を叩いたのです。
シニアの習い事というと、「脳トレにいい」「身体を動かせる」「人と交流できる」といった効能が注目されがちですが、私の場合は少し違いました。マジックは、「人生の疑問を回収する」シリーズ第1弾、と言ったほうがしっくりきます。

まずは、馴染みのあるトランプやロープを使ったマジックから。案の定、タネを知ってしまえば「なーんだ」というものもあります。でも、思い込みを巧みに利用した誘導の手口、つまり“心理戦”が肝なのです。こうした仕掛けを考え出したマジシャンたちには、ただただ脱帽するばかり。
やってみて分かったのは、マジックは単なる手先の技術ではなく、想像力とコミュニケーション力を鍛える素晴らしいツールだということ。そして一番の驚きは、トランプマジックなどの中に、二進法、数列、代数といった“数学の理論”が多く隠されていたことです。「なぜ?」と思っていたことが、ある日ふと“論理”で説明できてしまう。私にとってマジックは、遊びから論理的思考への小さなジャンプ台でもありました。
……と、そんな難しい話はさておき、今さら理屈をこねるより、素直に手順を覚えるのが一番。何より、マジックを通じて大切な人を驚かせ、ちょっぴり得意な顔をする――そんな刺激的な自己表現の時間が、今の私には何よりの宝物です。