都内で電車に乗っていた。ドアのそばには、女優ばりのキメキメの若い女性。そこに腰の曲がったおじいさんが、つえを頼りによろよろと乗り込んできた。
車内はすいていたが目的地が近いためか、ドアのそばのてすりにつかまった。
【プーウウウウッ】
発車してちょっとたったころ、かなりのでかい音が車内にこだました。周囲の乗客には、犯人があのど派手な女性であることは明らか。なのにその女性は暴挙に出た。
「おじいちゃん、おなか痛いの?」
目の前の老人に向かって優しげに、気高く言ったのだ。そう、見るからにプライドの高そうな女性は、見るからに気弱そうで無抵抗であろうおじいさんに罪をかぶせようとしたのだ。
ところが彼は意外に気丈なはっきりとした口調で反撃した。
「そしたら何か、わしの腹が痛いときには、あんたが屁(へ)をこくんか?」
女性は絶句してうつむいたまま。おじいさんの完全勝利に終わったのだ。電車が次の駅に着くと、彼はまたよろよろと、しかし誇らしげな顔で降りていった。
『勝った』
私はこそっと周りを見渡した。